「お前、食事はちゃんと摂ってるか?」
 僕の顔を見るなり、陽空はそう訊いた。

「そんなに青白い顔してるかよ?」
 僕が皮肉交じりに笑うと、陽空は真面目な顔で言った。

「してるよ」
「……そう、か」
 僕は顔を伏せる。

「大丈夫だよ。アイシャさんが持ってきてくれたの食べてるからさ」
「殆ど食ってないって聞いたぜ」
「……」

 食事は一切摂っていなかった。こんなに哀しくて、辛いのに。自分の腹が鳴るのが許せなくて、僕は食事に手をつける気になれなかった。

「お前が篭ってから、二日だ。今日の夕方に、晃ちゃんの葬儀があるからちゃんと出席しろよ」
「……晃は、死んでなんかないよ」
「なに言ってんだ」

 陽空は独りごちるように、小さく呟いた。そこには、信じられないものを見たときの、拒否感のようなものが漂っている。

「レテラ、お前大丈夫――」
「冗談だよ」

 冗談じゃないよ。
 僕は微笑んでみたけど、頬が強張っていたからちゃんと笑えてたのかは分からない。でも、陽空は一応ほっとした表情は浮かべていた。

「あの子は?」
「え?」
「あの儀式で来た、あの……」
「ああ」

 陽空は腑に落ちた調子で、
「あの子は、まだ目覚めてないんだ。医者が言うにはどこにも異常はないみたいだから、その内目が覚めるだろうってことだけど」
「そうなんだ」

 まだ、目覚めてないのか。

「今日は、ちゃんと食事摂るよ。アイシャさんに持ってこなくても良いからって言っておいて。ちゃんと時間になったら行くよ」

 僕は自分の口からその気のない言葉が出て、内心少しびっくりしていた。

「……分かった」

 陽空は安堵感を浮かべながら了承したけど、どことなく疑っているような感じの瞳もしていた。僕がちゃんと行くか不安なんだろう。

「もう少し寝たいんだ。良いかな?」
「ああ、分かった。おやすみ」

 陽空は僅かに笑んで障子を閉めた。

「……」

 僕は無言で障子を凝視した。
 そうか。あの子は、まだ目覚めてないのか。