* * *
晃と僕は、自室に移動した。その道中、どちらも話すことなく、無言で縁側や廊下を進んだ。
後ろを歩いてくる晃の気配を背中で感じながら、僕はまだ頭が混乱していた。どうして、なんで――そんな言葉ばかりが浮かんでくる。
僕は自室の障子を開いて、部屋の中心まで入った。晃が障子を閉める音を聞いて振り返る。逆光に照らされた晃は、すまなそうな表情をしていた。
どうしようもない感情が湧いてくる。切迫したような、激しい、暗くて悲しいもの。それは怒りにも良く似ていて、自分でもなんなのか分からない。
僕は晃に吠えるようにそれをぶつけた。
「どういうことなんだよ。晃!?」
晃は、顔を歪めて伏せた。僕は息を整えて、「ごめん」と謝った。晃は顔を上げた。申し訳なさそうな表情のまま、かぶりを振る。
「ううん」
それだけ言って、黙り込んだ。
しばらく重苦しい沈黙が流れて、僕は晃に尋ねた。
「どうしてなんだ?」
声が震えた。我ながら、情けない質問だと思う。どうとでも取れる、色んな意味を含む問いをぶつけて、相手に任せてる。でも、どうして以外の言葉が僕の頭には浮かばなかった。――どうしてなんだ、晃。どうして。
晃はしばらく黙り込んで、重い口を開いた。
その声は緊張からなのか、かすかに掠れていた。
「一年半くらい前に、円火様が尋ねていらした時に、話は聞いてたの」
「え?」
「もしかしたら、魔王に見合う者が見つからないかも知れないから、その時に探知能力者の協力が要るかも知れないって。その際に、もしかしたら命の危険があるかも知れないって」
「どうして、僕に言ってくれなかったの?」
晃は哀しそうな瞳で僕を見て、すぐに目を伏せた。
「そのときは私に決まってたわけじゃなかったし、もし探知能力者が必要になったら、候補者を集めて試験をするから……。私がそんなに強い探知能力を持ってるはずがないと思ってたから」
「不安じゃなかったの?」
自然と責める口調になった。それに気づいて、ぎゅっと口を結ぶ。晃は目線を下げたまま言った。



