レテラ・ロ・ルシュアールの書簡


 僕は愕然としたまま晃を見た。晃はすべてを受け入れたように微笑みを携えている。その顔を見て、晃はそのことを知ってるんだと悟った。

 なんでだよ? 不意に怒りが湧いてきた。どうして、僕に何も言ってくれなかったんだ。

「肉体を捨て、魂を魔王と混同させることで、世界中をより鋭敏に探知することが出来るようになるはずだ。能力者は能力を使いすぎると倒れたり、死んだりすることがあるけど、肉体的な制限がなくなることで、極限にまで能力を使えるようになると、僕は考えてる。この理論は、紅説様も可能だろうと仰って下さったし」

 マルの話はまったく入ってこない。
 気づいたら、僕は声高に叫んでいた。

「ちょっと待てよ! 晃がやらなくたって良いだろ! 探せば他に探知能力者はいくらでもいるだろ!」
「それはしたさ。各国から探知能力者を集めて試験したんだ。彼女が一番優秀だったんだ」
「――お前!」

 マルに食って掛かった僕を、陽空が止めた。

「落ち着けレテラ!」

 大きな手のひらが肩に食い込んで、そこではっとして我に帰った。僕はいつの間に立ち上がって、マルに掴みかかろうとしていた。

 マルは驚いた瞳で僕を見上げている。その瞳には微かに脅えたような動揺が走っていた。僕は前のめりに伸ばした腕をゆっくりと下げた。

「レテラ……」

 晃の呟く声が聞こえたけど、僕は晃の方を見れなかった。陽空は僕から手を離すと、落ち着いた声音で言った。

「マル。紅説王。こいつに少し時間をくれませんか?」
「……それは構わないが」

 王の戸惑うような声が聞こえた。

「もしかして、レテラと晃さんは顔見知りというだけではないのか?」

 硬い声音で王は誰かに尋ねた。多分、陽空だろう。背中越しに陽空が頷く気配がした。

「え?」

 マルの小さな呟きが耳につく。躊躇うような口調だった。

「レテラ、晃ちゃんと話して来い」

 芯のある語調で言って、陽空は僕の背を押して出入り口に促した。