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 三度目の魔王が誕生した瞬間は、何とも言えない思いがあった。
 赤い光に包まれたあの草原は、人間の死体で溢れている。人間が倒れている間に、動物がちらほらと混ざっている。残り少なくなった動物は、おそらくこの場で絶滅しただろう。

 熊、象、ねずみ、虫なんかもいるけど、やっぱり圧倒的に多いのは人間だった。
 草原を埋め尽くす大半の人間が能力者だと思うと、魔竜討伐に期待が過ぎる。でも、それよりも遥かに、僕の胸を占めていたのは哀しさだった。

 人間が苦しみ、死んでいく姿を見るのはやっぱり辛い。罪悪感が襲い掛かって、逃げ出したくもなった。でも僕はその光景を見据えた。
 それは皆も同じだった。

 ヒナタ嬢も、マルも、陽空も、燗海さんも、アイシャさんも、ムガイも。そして、紅説王も。僕は、横一直線に並んでいる皆を見た。

 ヒナタ嬢、燗海さん、アイシャさん、ムガイと並んでいる。マルと王と陽空は丘の下、草原にいた。

 皆、真剣な表情で眼下を眺めている。アイシャさんは、悲痛に眉を顰めていた。僕は、もう一度草原に目を移した。

 赤い光は消えていた。でも、草原は真昼のように明るい。大量の死体がくっきりと見える。女性、少女、青年、少年、中年男女に、老人。様々な人間が、目を瞑り、あるいは見開いて横たわっていた。

 業が深い。罪深いことを、僕らはしてる。
 その自覚があるから、逃げることは出来なかった。この業を、僕らは背負って生きなくちゃ。でなければ、犠牲になった人達はきっと浮かばれない。

 僕は、第三の魔王を見上げる王に視線を移した。王の横には陽空がいる。能力を使って疲れたのか、少し疲労した顔つきをしていた。

 お互いに年なのかな――なんて思いながら、紅説王に視線を戻す。王は、黙って白い太陽を見上げていた。その表情から、感情を読み取ることは出来ないけど、きっと哀しさや悔しさが込み上げているんだろう。

 僕は魔王を見上げて、願った。
 今度こそ、魔竜を葬り去る手立てとなってくれ。――第四の魔王を創ることがないように。