火恋はかっと目を見開いて、首を跳ねるように上に向けた。そのまま僕を鋭い目つきで睨みつけたかと思うと、突然がっくりと項垂れてため息をついた。

「まったく、どんだけ待ってたと思ってるのよ」

 ぶつくさと呟いた火恋に、「え?」と聞き返すと、火恋は軽く僕を睨んで、
「なんでもないわ」
 と言って文机の前に座った。

(火恋が待ってたのか? 僕そんなに好かれてたっけ?)

 僕は疑問に思いながらも、勉強に集中しだした火恋の邪魔をするわけにもいかず、黙って晃とマルの帰りを待った。

 * * *

 しばらくすると二人は帰ってきた。
 マルは縁側を歩いてくると、部屋の前で立ち止まった。

「じゃ、僕はこれで」
「え? もう行くのかよ」
「研究があるからね」
「お前、本当そればっかだな」

 火恋が不憫だ。
 僕はちらりと火恋を振り返ったけど、火恋は見向きもせずに勉強に集中しているようだった。

(もしかして、似た者姉妹か?)
 僕は内心で呆れながらマルに向き直る。

「レテラはどうするの?」
「もう少しいるよ」
「そう。じゃあね」
 マルは軽く手を振って、部屋の中を覗き込んだ。
「じゃあね、火恋」
「うん」

 火恋はあっさりとした声音で答えて、マルはスタスタと縁側を進んだ。
 やっぱり似た者同士か――。僕が苦笑を漏らしたとき、晃が部屋に入ってきた。同情するような瞳で火恋を見据えている。

 僕はその視線に促されるように火恋を見た。火恋は変わらず文机に向き直っている。もしかして、強がってるのか? それとも、マルみたいにドライで全然気にしてないのか?

 表情を確かめに行きたくて、うずうずしたけど、晃の手前それは止めた。火恋に下手なことをして、晃に嫌われたくない。
 僕は晃に向き直った。

「マルの話、なんだったの?」
「え?」

 晃は我に帰ったように振向いた。

「ああ」
 戸惑ったように視線を動かして、晃は首を振った。
「うん、ちょっとね」

 言葉を濁されて、がぜん追究心が沸く。
 でも、晃に嫌がられない程度にしなくちゃ……。僕は言葉を選んだ。

「えっと、能力者か確かめに行くって言ってたけど……?」
「ああ、うん。そうだね」
「……どうだったの?」

「うん。該当してた。でも、まだ他にも方法があるし、私が選ばれるって決まってるわけじゃないんだって。もしそうなったら全世界から選抜するって言ってた」
「そうなんだ」

 僕は歯切れ悪く言った。
 それだけじゃ全然なんなのか分からない。
 でも、僕は追及するのを止めた。

 晃があんまり話したくなさそうだったから。でも、もっと強く訊いておけば良かった。そうすれば、僕は死ぬ瞬間まで後悔を残すことはなかっただろう。