私はチェックインを済ませた直に駆け寄った。


「ねぇ、直!部屋行った後で中庭も見に行こうよ!」


「はいはい。行くよ。結の行きたいところみんな行こう。」


「わーい!」


私は喜んでルンルン気分で部屋へと向かった。


「ここだって。」


「藤の間?」


「そ。部屋番号じゃなくて、花とか植物の名前のついた部屋なんだって。」


「へー!めっちゃ風情あるじゃん!」


ガチャリと直が部屋の入り口の引き戸の鍵を開けると、早速私は中に入った。


「わ〜〜!綺麗!あっ、中庭が見える!」


私は靴を脱いですぐさま窓に駆け寄り、景色を楽しんだ。


「どう?気に入ってくれた?」


「うん!ものすごく綺麗だし、落ち着く!」


「さっきから興奮しっぱなしだけどね。」


「う…、そりゃ旅行だから浮かれるよ…」


「浮かれる結も可愛い」


「はいはい」


私は最近学んだ。

可愛いと言われたらスルーすることを。

いちいち顔を真っ赤にして恥じらっていれば、直の思うツボなのだ。

だから、最近は"はいはい"と受け流すことにしているのだ。


だが、今日の直はそうもいかなかったみたいだった。


「最近冷たくない?可愛いって言っても、可愛い反応しなくなったじゃん」


「だって、そうすれば直の思うツボだもん。」


「俺の思うツボじゃ、いけないわけ?」


「なんだか、負けた気がする」


「何に負けたの」


「直に。」


「ふっ、負けてもいいじゃん。」


「だめ。」


そう言ってると荷物を置いた直が後ろから抱き締めてきた。