「・・・うるさい・・・」

 ボソッと紗良が言った。


 女子社員達は驚いた目をして紗良を見た。


「もう・・・ほっといてよ! 言いたいなら、いくらでも言えば? 悪口だって、何だって別に言われても気にしないし・・・。こんな事に、巻き込まれる事が嫌! 時間の無駄! ・・・あんた達みたいに、私・・・時間がるわけじゃないから・・・勝手に言ってろ! 」

 
 紗良はその場から走り去った。


「あ・・・」

 結人は女子社員達を見た。


「悪いが、君達の処分について社長と話をさせてもらう。これで二度目だからな」


「そんな、私達何もしてません」

「望月さんが勝手に来たんですよ」



「同じ部署の者から通報が入った。君達が彼女を呼び出して、連れて行ったとな」


 女子社員達は顔を見合わせ何も言えなくなった。


「とりあえず、君達は全員しばらく自宅待機だ。後の処分は社長に決めてもらう」


「そんな」

「私達が悪い訳じゃ」

「そうよ、もとはと言わば望月さんが」



「いい訳なら後で聞く。社員同士のトラブルは、未然に防ぐ。事が解決するまで、自宅待機だ」


 それだけ言うと、結人は紗良を追いかけた。



 女子社員達は何も言えなくなり、とぼとぼと帰って行った。





 1階のエントラスを出てくる紗良。


「待って! 」


 結人が追いかけてきた。


 だが、紗良は知らないふりをしてそのまま歩いて行く。



「待って! 」


 追いかけてきた結人が紗良の手を掴んだ。


「ちょっと待てって。顔色が悪い、送って行くから」

「結構です」

「何言っている。そんな青い顔しているのに」

「私の事はほっといて下さい。また、あんな連中に絡まれるのは面倒ですから」

「さっきの奴らは、当面自宅待機にした」


 紗良はフッとため息をついた。

「いいですよね、時間がたくさんある人は。・・・私にはそんな時間はないし・・・人と関わると、面倒なトラブルに巻き込まれるし。余計な感情に振り回されるから、嫌なんです。・・・だから・・・もうほっといて下さい。・・・」


 そう答える紗良が、とても悲しそうな目をしていて。

 結人は思わずギュッと抱きしめてしまった。