「周、お前な──」

「でも」


藪さんが少々咎めるようになにかを言いかけたとき、周さんがそれを遮った。

次の瞬間、上体を動かされて背中をしっかりと腕で支えられ、膝の裏にも腕が回される。そして、ふわっと身体全体が浮き上がった。

さすがに驚きで目が開き、私を見下ろす周さんの端整な顔が視界に飛び込んでくる。


「この子は大切にすると決めた。……いや、大切にしたいし、放っておけない。なぜか、希沙だけは」


穏やかで甘めな声に、すぐそばに感じる鼓動に、苦しいくらい胸がきゅうっと締めつけられた。

そんなふうに思われて、嬉しくならないわけがない。周さん自身はなんとなく感じているだけなのかもしれないが、だからこそ作られた気持ちではないはず。

頬も心も火照るのがもどかしくて浴衣をきゅっと掴むと、彼はくるりと方向転換して階段のほうへと歩きだす。寝室に向かうのだろうか。

あ、藪さんたちに挨拶……!と、はっとして彼らを見やれば、ふたりとも目が溶けそうなほどニンマリしてこちらに手を振っている。


「俺たちも適当に片づけて帰るわ」

「おやすみなさーい」


ふたりはとっても微笑ましそうに言い、されるがままの私を快く見送っていた。