見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

「君の名前は先ほどお父さんから聞いたが、私はまだだったか。申し遅れてすまない」


なんだ、父と話していたのね。そういえば、さっきも父に案内されてここに来ていたっけ。

納得する私に、愛想は悪いが丁寧な物腰で名刺が差し出された。それを軽く頭を下げて遠慮がちに受け取り、じっくりと拝見する。

まず目がいった名前は、こちらもなんとなく気高そうな響きだ。


一柳(いちりゅう) (あまね)さん……。取締役社長!?」


名前を声に出してみたくて読み上げた直後、横に書いてある役職名に驚き、声を大きくしてしまった。

この人、社長様なの!? 確かにオーラは半端じゃないものがあるけど!

名刺を両手で掴んで唖然とする私に、一柳さんは自身が社長を務める〝ヒトツヤナギ〟という会社について、簡単に説明する。


「祖父の代から、歴史ある屋敷や海外の古城を買い取って、レストランや宿泊施設として利用する事業を展開している。国内には八つの都道府県に施設があるが、社名を聞いたことはないか?」

「あ、えっと……はい」


正直に知らないことを認めると、彼の美しい顔が険しく歪んだ。ひぃぃ!と声を上げたくなりつつ、とりあえず謝る。