見習い夫婦～エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます～

門を開けた周さんが、突っ立っている私を見て不思議そうにしているのに気づき、慌てて近寄る。


「こんなところにひとりでお住まいなんですか……!?」

「ああ。数年前までは両親も住んでいたが、軽井沢に建てた別荘に移住して、それからはひとり暮らししている」


やはり持っておられるのですね、別荘を。想像通りのセレブだ。

脱帽しながら、彼のあとに続いて手入れが行き届いている日本庭園を抜けていく。


「旧一柳邸をレストランにすることになってここを建て、一家で移り住んだ。客人を招く機会も多かったからこの広さだが、俺ひとりでは５ＬＤＫなんて無駄でしかない」

「５ＬＤＫ!?　それは確かにあり余りますね」

「まあ、これからは希沙がいるからな」


玄関にたどり着いたと同時にそう言われ、まだ慣れない名前呼びに胸がくすぐったくなる。


「もう君の家でもあるんだ、好きなように使ってくれて構わない。ただし、物を散乱させないように」


穏やかな調子だったのに、最後の忠告だけ妙な圧を感じてギクリとする。そうだ、すでに花嫁修業は始まっているのだ。

今一度しっかり心に留めるも、怒られないようにしなければという緊張から口の端を引きつらせて、「ど、努力します」と再三口にした。