……一柳さんって、冷たくて怖そうに見えるのは上辺だけで、もしかしたらとても誠実で情熱的な人なのかもしれない。

そして、こちらが抗う気を失くすほど惹きつける魅力を持っている。

ただただ彼を見つめて黙りこくっていると、彼の瞳が意地悪そうに若干細められる。


「怖気づいたか?」


そう尋ねられ、私は自然に首を横に振っていた。

怖くないと言ったら嘘になるが、今は好奇心と前向きな気持ちのほうが勝っている。この人と一緒に、まずは一歩を踏み出してみようと思える。


「こんな私でよろしければ、結婚を前提に……とりあえず、始めてみましょう!」


何事もやってみなければわからない。そんな気楽な調子で、明るく言った。

一瞬ぽかんとした一柳さんは、次の瞬間、ふっと表情を緩めた。笑ったとは言えないくらいだが、柔らかな表情を見ることができて少しだけほっこりする。

すぐにクールな顔に戻ったものの、どことなく嬉しそうに見えるのは私の気のせいだろうか。


「今から俺たちは婚約者だな。よろしく、希沙」


彼のひとことで、新しい関係が始まったことを実感させられる。思ったよりも、ワクワクしている自分に驚く。

私は胸が早鐘を打つのを感じながら、〝お願いします〟の意味を込めて丁寧に頭を下げた。