見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

「華族は裕福な家が多かったが、何不自由なく暮らしていたわけじゃなく、様々な制限やしがらみがあった。それは今も同じで、結婚ひとつとっても、相手の家柄だとか事業に利益のある関係を重視して選べと言い聞かされる。そんな義務的なものに、願望も希望も元からなかった」


彼の話を聞き、次第に興奮が治まっていく。

事情は違えど、彼も私と同じように結婚願望を持てなかったらしい。家系を繋いでいくために必ず婚姻を結ばなければならない人にも、他人にはわからない苦労があるのだろう。

一柳さんはわずかに苦虫を噛み潰したような顔をして、口調も刺々しいものになる。


「見合いをし始めてから、愛せそうもない身分がいいだけの女性と、なぜ食事だの会話だのをしなければいけないんだと馬鹿馬鹿しくなって、いっそ生涯独身を貫いてやろうかと投げやりになっていたときだ。君に出会ったのは」


美しい漆黒の瞳に捉えられ、心臓をきゅっと掴まれる感覚を覚える。

彼の瞳に迷いは感じられない。どうしてそんなに、いい女とは程遠い私なんかを一直線に見つめられるのだろう。