まさか、この私が求婚されるとは! 人生を変える出会いが……あった、かもしれない。ここに。

しかし、どう考えたっておかしい。私だって彼の名前も、なにも知らないのだから。

以前にどこかで会ったことがあったか、そもそもなぜこの状況になったのか。私は半分パニックになった頭で、数時間前に記憶を遡らせる。


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ここは、言わずと知れた日本一の茶処、静岡。四月下旬の今は新茶が芽吹く時期のため、辺り一面に綺麗な若草色が広がっている。

この緑の絨毯が敷かれた景色を一望に見渡せる場所に、私が家族と暮らす日本家屋がある。その離れにて、私は趣味である煎茶道(せんちゃどう)のお点前を披露していた。

抹茶を立てる茶道とは違い、急須でいろいろな種類のお茶を淹れることができる煎茶道。使う道具は小ぶりで鮮やかなものが多く、また違った楽しみがある。

わが家は煎茶の葉を栽培している茶農家のため、私は昔から煎茶道に興味があり、その作法を学んできた。

今日のように時々お茶会を開いて、集まってくれた人に作法を教えたりもしている。