「私も、富井さんにお聞きしたいことがあったので」


やや表情に真面目さをプラスして言うと、今度は彼がキョトンとし、次いでいたずらっぽく口角が上がる。


「〝やっぱりこっちに嫁に来てもいいですか?〟って?」

「それはないです」


間髪入れずに返せば、富井さんは腕を組み、「一刀両断するところがいいね~」と感心していた。

そのやり取りに気が緩んで笑っていたものの、彼はふと感づいたように私の顔をまじまじと覗き込んでくる。


「でも、なんかいつもの元気がない気がするよ。なにかあったんじゃないの、イチと」


うわ、富井さん鋭い。適当なメイクじゃ、目の下のクマや、泣いて腫れた瞼を隠せていなかったか……。

ギクリとして気まずさから俯くと、彼は優しく私の背中に手を当て、「とりあえず、中に入って」と促した。


呉服屋らしい高級感のある店内を通り、案内されたのは和風かつカラフルなインテリアが絶妙に馴染んでいる和室。ここがデザイナーとしての彼の根城だろうか。

オシャレで独特な空間にとりあえず腰を下ろすと、富井さんがお茶を持ってきてくれた。