「それにしても今回の屋敷、築年数のわりにはだいぶ綺麗でしたね。……一柳社長?」
向かいの席に座る部下に不思議そうに顔を覗き込まれ、我に返った。箸を持つ手を動かしながら、何事もなかったように答える。
「ああ……そうだな。修繕費用は抑えられそうだ。あとは駐車場が問題か」
今は新規事業のための下見をしに京都へ来ていて、引き連れた男性社員ふたりと遅めの昼食をとっているところ。
すでに用は済ませ、あとは帰るだけなのだが、少し仕事から離れるとつい別のことを考えてしまう。
それには部下たちも気づいていたらしく、今回の案件の話をしたあと、若干心配そうに声をかけられる。
「社長、どうかされましたか? この出張中、上の空になっているときがありますよ」
「婚約者さんが恋しくて、いても立ってもいられない、とか」
向かい側の営業部長に続き、隣に座る年上の専務が冗談めかして言った。部長はそれを否定するように軽く笑う。
「いやー、女性にうつつを抜かすことなんてありえない社長ですから、それは──」
「ある」
ボソッと呟いて専務の言葉を肯定すると、険しい表情で深いため息を吐き出した。



