しかし、それからしばらくして亡くなった祖父のことを思うと、嘘でも〝いい人を見つけるから安心してくれ〟と声をかけてやればよかった、と少々後悔が残る。

その後、一応祖父の言葉を頭の片隅に置いて見合いを始め、相手の女性に対して勘を働かせてみたが、なにかを感じることは一向になかった。

そろそろ相手を決めなくてはいけないが、まったく気乗りがしない。最悪、一柳家の血筋が途絶えても、旧一柳邸という遺産があるのだからまだいいだろう。

……と、投げやりなことまで考えだした頃、取引していた茶農家が廃業することになり、新たな取引先を探さなければならなくなった。

せっかくなら名産地で仕入れようと自ら静岡に出向き、たまたま良質な茶葉を見つけた泰永茶園で、まさか恋愛の直感を覚えることになるとは。


あどけなさが残る素朴で愛らしい顔立ちの女性が、品のいい着物を纏って美しい振る舞いをする姿に、一瞬で目を奪われた。

しかも、その作法はとても馴染み深いものだったため、俺は瞬きするのも忘れるくらい魅入っていた。

よくよく煎茶道具を見てみれば、丸く模る流水紋に紅葉が舞う紋が描かれている。この紋のおかげで、俺は初めて縁というものを感じたのだ。