『〝なんとなくこうしたほうがいい〟と感じることがあるだろう。それが直感ってやつで、当たることが多いんだ。ピンときたら、それに従って行動してみるといい』


なぜかその教えはずっと頭にあって、大小様々な選択をする場面だったり、ビジネスのあらゆる決断をする際に、自分の勘を信じることが多々ある。

実際、これまで事業で大きな失敗をしたことがないのは、父から学んだ経営術や自分の経験、それに勘を併用した結果だと思っている。

俺が三十歳のとき、身体を壊して入院していた祖父に感謝を込めてその話を聞かせると、彼はシワが深くなった顔で愉快そうに笑った。


『仕事ばかりに熱中するのは父親譲りだな。たまには恋愛で勘を発揮してみなさい。〝この子だ〟と思う女性に出会えたら、絶対に逃してはならんぞ』


そう言われた俺は、苦笑を漏らして『それは無理だよ』と返した。

家のために好きでもない相手と結婚して、子供を作り、両親がやってきたことをそのまま繰り返していく──それが、生まれたときから決められている俺の運命なのだと、ずっと思っていたから。