橘さんたちの話を聞いて引っかかったのはそのせいだ。もしかしたら、まだ私の知らない事実が隠されているのかもしれない。

胸にさざ波が立つ感覚を覚えたとき、スマホのアラームが鳴った。それを止めるため画面を見ると、メッセージが届いていたことに気づく。

送信者はほのかちゃんだ。昨夜、私が眠ったあとに送られていたらしい。


【ディナーの時間に、富井さんという方が希沙さんに用があったみたいで来られましたよ。『暇があれば店に来てほしいな』って伝言を頼まれました】


そのメッセージを見た途端、スイッチがオンになった感覚がして、重い身体を起こした。

富井さんはこれまで煎茶道教室にたびたび参加していた。私になんの用があるのかも気になるが、女紋のことも呉服屋の彼に聞けばなにかわかるかもしれない。

こうしてだらだらしていても気分は沈む一方だし、不安はなくならないのだから動かなくちゃ。

胸につかえたものは、すべてスッキリさせよう。大切な人との幸せな未来を実現するために。

どれだけ悩んでも、根底にあるその願いだけは確かなのだから。