『私の妻になっていただけないだろうか。君を娶りたい』


ふいに、会ったばかりの頃に言われた彼の言葉が蘇ってきて、ふふっと力無い笑いがこぼれた。

汚部屋に住んでいた田舎者の私に、よく求婚したよね……。あの頃の周さんって、本当に無愛想で怖かったな。

彼との出会いを振り返って、再び切なさに襲われそうになっていたとき、ふと気になっていたことを思い出した。数日前に橘さんが話していた、女紋のことだ。


「そういえば……」


周さんと初めて会ったとき、彼は着物と同じ紋が描かれた私の煎茶道具をまじまじと見て、『この急須は、どこで手に入れた? 紋が美しい』と言っていた。『見つけた』とも。

今の今まですっかり忘れていたが、彼があの女紋に興味を示していたのは、なにか意味があってのことなのだろうか。私に求婚したのも、ただの偶然ではない……?