とはいえ、まったく夢がないわけじゃない。ただ、好きな人と結婚して、家族ができて、老後までひとつ屋根の下で暮らして……という、幸せな生活を送っている自分が想像ができないのだ。

ダメな私も愛して、人生を変えるような人との出会いが、そう簡単に転がっているわけがないし。

そんな、救いようのないアラサー干物女の私の前に──今、とんでもないイケメンが座っている。

わが家の離れの茶室に、ふたりきり。今だけは普段のだらしない服装ではなく、きちんと着物を着つけている。正座をする私に向かって、スーツ姿の身なりのよさそうな彼が、凛々しい表情で口を開く。


泰永(やすなが) 希沙(きさ)さん」


突然、教えてもいない私の名前を呼ばれ、驚きで目を丸くした。

なぜ?と考える間も与えないかのように、彼の口からさらに衝撃の発言が飛び出す。


「私の妻になっていただけないだろうか。君を(めと)りたい」


──一瞬、完全に思考が停止した。

そしてすぐ、〝妻〟と〝娶る〟の単語の意味を理解した私は、「はいっ!?」とすっとんきょうな声を上げる。

唐突すぎるプロポーズに、開いた目と口が塞がらない。