富井さんが本当に私を心配してあの話をしたのか、それとも、犬猿の仲である周さんの婚約者だから少し困らせたかったのか、はっきりとした理由はわからない。
それを考えようにも到底無理だった。頭の中は、ずっと手を繋がれたままの周さんのことでいっぱいだったから。
しかし、一旦ホテルのフロントに下りて鍵をもらい、再びエレベーターで宿泊する部屋がある四十五階へ向かおうとしているのだが、その間彼はなにも喋ろうとしない。
ちらりと表情を窺えば険しいお顔をしていて、富井さんと話していたことが気に食わなかったのかな、と不安になる。
人気のないエレベーターに乗り込んでから、私が遠慮がちに「あの……」と声をかけるのとほぼ同時に、彼も口を開いた。
「なぜあいつといた? 話しかけられたか」
怒っている感じでもないが、やや威圧感のある声で問いかけられ、私は身体を強張らせつつ答える。
「お手洗いの場所を教えてもらって、その流れで一柳家のお話に……。でも私は、自分の気持ちをはっきり伝えたつもりです」
別にやましいことはなにもないので、胸を張り、周さんをまっすぐ見上げた。彼も、真剣な視線を絡ませる。



