見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

彼を分析しつつ微妙な顔をしてツッコんだあと、私は目を見張った。

無愛想な彼がほんの少し、おかしそうに笑った……気がしたから。

注意して見ていないとわからないくらい一瞬だったが、きっとそうだと思う。形のいい唇が上向きになった緩んだ表情は、これまでの怖い印象を覆すほどに魅力的だった。

気を取られて固まる私に、彼は「また来る」と短く告げて踵を返す。

私はなにも返すことができず、すらりとしたモデルのような後ろ姿を、ただただ見つめているだけだった。



その日の晩、家族五人でこたつ布団を取ったテーブルを囲み、さっそく家族会議を開いている。

父は、私が言われたのとほぼ同じ内容の話を一柳さんから聞いたらしく、ただただおったまげていた。あのとき茶畑と工場のほうにいた母や兄たちにも伝えられたが、皆、半信半疑だ。

ただ、二十ニ歳である弟の(りく)だけは、夕飯の食器を片づけたあとのテーブルに身を乗り出し、とっても楽しそうにニコニコしている。


「初対面にもかかわらず姉ちゃんに求婚してくるツワモノがいたとはなぁ。しかもすげー金持ちでイケメンだって? 一気に勝ち組じゃん! これまで負け続けてきた甲斐があったね~」

「あんた、ほんと清々しくディスるよね」