見習い夫婦～エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます～

「……と言いますと？」

「昔から有名だったからさ。〝あの家のお嫁さんは幸せにはなれない〟って」


富井さんの顔からは笑みが消えていて、私の胸はざわっと騒がしくなり始めた。彼のその表情を見る限りでは、嘘をついているようには思えない。

黙り込む私に、彼は苦々しい口調で続ける。


「一柳家の嫁は、代々血筋を途絶えさせないためだけに迎え入れられる存在なんだ。子供を授かれないようなら、お役御免で見放された。これは周知の事実だよ。今日、君も皆に子供のことについて言われたんじゃない？」


核心を衝かれてギクリとした。思わず足を止めてしまう。

皆さんが跡取りの話題を出していたのは、単なる世間話や好奇心からではなく、一柳家の事情を知っていたからだったの？

周さんのお母様も、跡取りを残すプレッシャーに耐えてきたのだろうか。だから、私に授かり婚を奨めてきたのかもしれない。

無意識に目線を下げて考え込む私に、富井さんは心配そうな声で語りかける。


「これから、きっと少なからず嫌な思いをすることになる。それに加えて、イチのあの性格じゃ君を守ってくれるかどうかわからない。引き返すなら今のうちだよ」