見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

しばしの間、今日のディナーショーの感想を語り合う。富井さんって、周さんといるときはちょっと刺々しかったけれど、普通にしていればとても気さくで話しやすい人だ。

彼のおかげで、先ほどよりは混んでいないお手洗いに無事着き、私はお礼を言って別れた。

……しかし、用を済ませて外へ出ると、まだ富井さんが壁に背を預けて立っている。私は目を丸くして彼に歩み寄った。


「富井さん、私を待ってたんですか?」

「イチのところに戻るまでに迷子にならないかなと思って。もう少し君と話もしたかったし」


意味深に口角を上げる彼に、私はキョトンとするも、とりあえず再び会場のほうへ一緒に向かう。

私となにについて話したいんだろう、と頭の片隅で考え始めたのもつかの間、富井さんがこう問いかける。


「ねえ、希沙ちゃんも旧華族なの?」

「いえ、ごくごく普通の家庭です」

「そっか。じゃあ、なおさら不思議だな。よくあの一柳家に嫁入りする気になったね」


これまでとは違う心なしか冷たさが滲む声に、不穏なものを感じる。それはどういう意味なんだろうか。