「衝動を抑えているんだ」

「え?」

「今、所構わず君を抱きしめて、口づけるところだった」


ボソッと呟かれた言葉の意味を理解した瞬間、一気に全身が熱くなった。

嘘……完全に素面な今、この間の夜みたいに衝動に駆られたっていうの? それって、少しは恋愛脳になってきていると受け取っていいんだろうか。

いや、もしかしたら着物姿だから魔が差しただけってこともあるかも……。やっぱりまだこの人の心境はわからない!

真っ赤になっているだろう顔を俯かせて悶々としていると、ふいにダイヤがきらめく左手を取られた。

周さんは私の手を引き、建物の中へと歩き始めながら言う。


「いくら見せつけるといっても、さすがに由緒正しいこの場でそれは品位を損ねるだろう。帰ってからにする」

「ええ!?」


最後のひとことに反応せずにはいられない。帰ったら、甘い時間が待っているかもしれないのだから。

理性的で、恋慕の情などどこ吹く風といった調子の堅物な彼が、少しずつほころびを見せてきている気がする。

なにより、私を意識してくれていることが嬉しくて、熱が伝わる繋いだ手にぎゅっと力を込めた。