見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

動揺を露わにする私に、橘さんは哀れむような笑みを向ける。


「お点前を披露しなくてよかったかもしれないわよ。教えてもらうほうからしたら、生まれながらに煎茶家の家系の師範がいいんじゃないかしら」


ズキンと胸に痛みが走る。同時に、わずかながら持っていた自信にヒビが入る感覚を覚えた。

これまでは趣味の範囲だったからよかったが、仕事の一環として本格的に作法を披露するのはおこがましいだろうか。

周さんに褒められただけで、その気になっていた自分が浅はかだったのかもしれない。

ここへ来て打ち沈んでいたとき、ホールのほうから周さんが現れた。私はなんとなく気まずくて目線をはずし、橘さんはきりりとした仕事モードに戻る。

厨房にオーダーを伝えたあと、彼はいつもの無表情で私たちに告げる。


「トレヴァーさん、数日前にスポーツをしていたら肉離れを起こしたらしい。まさか車椅子で登場するとはな」


さすがの周さんも予想外だったに違いないが、特に困っているふうではないので、おもてなしするのに差し支えはないのだろう。顔に出さないだけかもしれないが。

私たちも理由がわかって納得したところで、橘さんが問いかける。