せっかくの機会なのに……と残念に思いながら、食器を洗浄のほうへ置いてデシャップに戻る。
そのとき、おば様方と入れ違いでやってきていた橘さんが私に気づき、ふいにこう問いかける。
「泰永さん、あなたは家元なの?」
突然の質問に戸惑いつつも、とりあえず答える。
「いえ、私は分派なので……。家元制度をとっていない小流派なんです」
「そう、珍しいのね」
橘さんの言う通り、どこの流派もたいていは世襲制で、特定の家や一族が受け継いでいる。
しかし、私や母が属している〝悠久流〟は、家元から皆伝を受ければ次は自分が一派の家元になることも可能なのだ。
そのため、現在は組織が細分化し、小流派と呼ばれる分派が多数存在している。
橘さんは、どうやらその辺りの事情を察したらしい。
「家元制度じゃないっていうと、要は習ってさえいれば誰でもその流派を名乗れるということよね。きっと数えきれないくらいの分派があるんでしょう。どこかで作法が間違ったとしても、そのまま伝わっているかもしれない」
彼女の指摘に、胸が急にざわめきだす。
今まで考えたことはなかったが、確かに自分の作法は大元の悠久流に正確なのかはわからない。人から人へ伝承される間に少しずつ変わっていたら、私が教えてもらったお点前は別物になっている可能性もあるからだ。
そのとき、おば様方と入れ違いでやってきていた橘さんが私に気づき、ふいにこう問いかける。
「泰永さん、あなたは家元なの?」
突然の質問に戸惑いつつも、とりあえず答える。
「いえ、私は分派なので……。家元制度をとっていない小流派なんです」
「そう、珍しいのね」
橘さんの言う通り、どこの流派もたいていは世襲制で、特定の家や一族が受け継いでいる。
しかし、私や母が属している〝悠久流〟は、家元から皆伝を受ければ次は自分が一派の家元になることも可能なのだ。
そのため、現在は組織が細分化し、小流派と呼ばれる分派が多数存在している。
橘さんは、どうやらその辺りの事情を察したらしい。
「家元制度じゃないっていうと、要は習ってさえいれば誰でもその流派を名乗れるということよね。きっと数えきれないくらいの分派があるんでしょう。どこかで作法が間違ったとしても、そのまま伝わっているかもしれない」
彼女の指摘に、胸が急にざわめきだす。
今まで考えたことはなかったが、確かに自分の作法は大元の悠久流に正確なのかはわからない。人から人へ伝承される間に少しずつ変わっていたら、私が教えてもらったお点前は別物になっている可能性もあるからだ。



