見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~

「すっ、すみません、存じ上げず……!」

「いや、自分もまだまだだと思っただけだ」


小さく首を振る一柳さんは、どうやらこちらを責める気はないらしい。シャープな顎に手を当ててなにかを思案する彼を見て、私は胸を撫で下ろした。

怒られるかと思った……! 怖い顔をするのは癖みたいなものなんだろうか。いちいち緊張しちゃうな、この人といると。

それにしても、ハイスペックな御曹司様だ。おおまかなことしか想像できないが、海外の古城を所有しているというだけで、自分とは住む世界の違う人だとわかる。

もう一度名刺を見てそう感じ、思わず圧巻のため息がこぼれた。

そんな確固たる地位を手にしている彼が、どうして平凡すぎる茶農家の娘に求婚してくるのか。


「あの……なぜ、私なんですか?」

「君が淹れる煎茶と、君自身に価値を見出したからだ」


名刺から顔を上げ、改めて問いかけると、一柳さんは思案するのをやめて迷わず答えた。そして、今日ここへ来た理由をやっと話しだす。


「今日はあらゆる施設で使う、上質な煎茶を探しに来たんだ。この近くに出張で来ていたついでに寄ってみたんだが、泰永茶園の葉も、君が淹れる茶も素晴らしい。これまでいただいた多くの煎茶の中で、一番惹かれた」