図書館は空調が効いていて、静かで気持ちがいい。

2階の仕切りがついた机は結構埋まっていた。

私は適当に座ると、今もまだ残っている課題の数学の問題集を取り出した。

1時間が経過する頃、全然進まないことに気付く。

分かりそうなものから、と思うが最初の方でつまづいているから全然分かるものがない。

終わらない・・・。

教科書と睨めっこしてると、突然肩をポンと叩かれた。
驚いて振り向く。

「おう。」

田尻くんだ。
びっくり。

「なんで?」

口パクで言う。
田尻くんが腰を落とす。

「俺、夏休み中毎日来てんの。」
「そうなんだ。」

私は自分でも驚くほど喜んでいた。
課題が進むからだ。

すっかりお昼を過ぎていたこともあって、近くのファミレスに移動した。
簡単にご飯を食べてから、早速続きに取り掛かる。

結果、スイスイ進めることができた。

そして驚くほど、分かりやすい。

平良の教え方と違う。

平良って、自分で鼻歌を歌うように解いていく感じ。
「ここがこうなるでしょー、で、こっちがこうなるでしょー・・・」ってリズムよく一人でに進んでいく。
私はいつもそんな平良を「頭いいんだなあ」って眺めてるだけだった。

「前山さんさ、サインとコサイン全っ然分かってないでしょ。」
「うん、サインコサインタンジェント、全っ然分かってない!!」

田尻くんにズバリと当てられて、つい笑顔になった。

「そっから説明しないとなー。」

田尻くんがかなり教科書を遡る。
家庭教師みたい。
お金払わないとダメなんじゃないかな。

田尻くんがノートに三角形を描いた。

何度も何度も繰り返し教えてくれる。

マンツーマン指導ってこんなに分かりやすいんだ。

「いや、俺も数学苦手だから分かる。」

田尻くんが私をフォローするように言う。

「正直、教えられるほど理解してるわけでもないんだけど。」
「えー、すっごい分かりやすいよ。」

私の言葉に田尻くんが驚く。

「まじで?こんなんで良かったらいつでも聞いてよ。」
「助かるー!LINEするかも!」
「全然大丈夫。」

今日偶然にも田尻くんに会えて良かった、と心から思った。

私の数学の課題に一本の光が射し込んだようだ。
やっとゴールが見えてきた。