晴天の春の日。


田舎道の道端にバイクを停め、休憩中の男が一人。


田舎道には、似つかわしくないかなりのイケメン。


(やっぱり、田舎はいいなぁ。空気も美味しいし、景色も最高だし)


奥には山並みが見え、道の両脇には田んぼや畑ばかり。


(腹減ったなぁ、そろそろ、行くか)


バイクにまたがり、再び出発しようとエンジンを…。


「ん?あれっ、なんでっ」


かからない。


「はぁ?なんでだよっ、クソっ」


頭の中が真っ白になり、ため息と空腹感しかなかった。


「はぁ?2時間っ、マジかよ!」


電話を切るなり、一人怒鳴るしかなかった。


「こんな、なんもないとこで2時間待てってかよ」


修理を頼んだが、業者がここまで来るのに2時間かかると言われた。


挙げ句の果てこの場ですぐ直るわけではないので、業者のトラックで帰ることになりそうだ。


頭を抱えて、座り込む。


「せっかくの休みが…。くそっ、やっぱ、あのレンタルやめとけばよかったなぁ」


実は、仕事でバイクに乗ることがあるが自分のバイクは持っていない。


たまの休みに気晴らしレンタルバイクで走りに行く程度。


いつもの店は自分の乗りたいバイクが貸出中だった為、初めて利用した店のバイクが外れだったようだ。


「腹、減ったなぁ」


空を見上げて、ため息をつく。


すると、どこからか車の走る音が聞こえる。


音の聞こえてくる先をじっと見つめていると、一台のワゴン車がこちらに向かって走ってくる。


何を期待するわけでもないが、ただ通り過ぎるのをじっと見てしまう。


と、何か察したのか少し行ったところで車が止まった。


車は、勢いよくバックしてくると、男の目の前で止まった。


運転席の窓から、女性の姿が見えた。


「どうかしました?」


女性は窓から、顔を出して話しかけてきた。


「あっ、あの、バイクが壊れて…」


「え、壊れちゃったの?」


女性は車から降りるとバイクに近寄り、エンジンやらなんやらと調べると、


「誰か、呼んだ?」


と聞いてきた。


「あ、業者を頼んで…」


「いつくるの?」


「2時間後です」


「え?2時間⁈ちょっと待って」


そう言うと、スマホを取り出しどこかに電話かける。


「あ、よっちゃん、私。今、ちょっと出れる?…うん、悪いけど、バイク一台見て欲しいんだけど。…エンジンが掛からなくて…2時間かかるって。あ、場所は、うちの店からちょっと来たとこ。うん、じゃ、よろしくね」


電話を切ると、


「私の連れが来てくれるって。10分で来るって言うから、みて貰って、腕は確かだから。ごめんね、私、約束あるから、行くね」


「あ、あ、ちょっと、あの」


女性は、ほぼ一方的に喋ってその場を去って行った。
 

圧倒されながらも、


「え?どういうこと?…すげー、美人だったな」


よくわからないまま、待っているとトラックがやって来て、作業着姿の男性が降りて来た。


「持っていかないと無理だから」


そう言って、手際よく荷台にバイクを積み込む。


「じゃ、乗って」


「あ、はい」


言われるがままに車に乗り込む。


「どっから、来たの?」


「あぁ、東京です」


「東京かぁ、そりゃ大変だ〜。夏月の知り合い?」


「え、さっきの女の人?」


「あ、あいつ夏月。また、夏月のお節介が始まったか」


「夏月…さん?」


「まぁ、お陰で2時間待たなくて済んだんだから、ラッキーだったなぁ。あいつ、世話好きだからさ、困ってる人見たらほっとけないんだよね。あ、修理してる間、夏月の店で待ってて」


「店?」


「レストラン的な」


(マジか⁈助かった〜)


2時間待ちからも空腹からも解放されると思うと、ほっとした。


「俺、吉則。お宅、名前は?」


「登坂です」


「登坂君ね」