甘えることが気持ちいいなんて知らなかった。

思ってもみなかった。

ずっと、頼ったり甘えたりするのは、申し訳なくて心苦しいものだと思ってたから。

でも、今は違う。

こうして彼に寄りかかっていても、心が窮屈になったりはしない。

だって、彼は嬉しそうに笑ってくれるし。

きっと、私だって彼に頼られたり甘えられたら嬉しいもの。

だから、そういうものなんだなって。

頼ることも、甘えることも、やっぱりちょっとまだ慣れない。

けど、たぶんもう私は虜になっているんだ。

ドキドキして、ふわふわする、この甘い気持ちの。


「それにしても、すごい人出だなぁ」

「だね」


諒くんの言葉にあらためて周りを見渡すと、男性でも浴衣の人がけっこういる気がした。

といっても、浴衣を着ているのは家族連れかカップルばかりのようだったけど。

そういえば、澤君も瀬野ちゃんも夏祭りに行くって言ってたっけ。

もちろん、彼氏彼女で。

ハルピンは「気が向いたら行くかもだけど、たぶん行かない」とか言ってたんだよね。


「聡美さん、お友達???」

「えっ」


はっとして、諒くんの視線の先を見遣ると、まさしく私の“お友達”がこちらを見てた。


(澤君!と、真綾さん!?)


澤君の隣には写真でしか見たことなかった真綾さんが!

ふたりは私たちと同じく浴衣姿で、真綾さんは手をつないで澤君に寄り添っていた。


「友達。同じクラスなの」

「ふたりとも?」

「えっ」


(あ、そうか。なるほど……うん)


「友達は男の子のほう。お隣は彼女さんだよ。写真見せてもらったことあるんだよ」

「そうなんだ」


考えてみると、こういう場面て初めてだった。

友達に彼氏彼女を紹介してもらうのも。

自分が、紹介することも――。


(なんかちょっと、不思議な感じ?)


「溝ちゃんたちも来てたのな」

「うん。澤君たちもね」


(えーと、こういうときってどうしたいいんだろ……?)


すると、真綾さんが思い切り人懐っこい笑顔で話しかけてくれた。


「“溝ちゃん”さん!」

「あ、はいっ!真綾さん!」