急にワサワサしだした心を、私はどうにか落ち着けようとした。

ああもう、諒くんは最強すぎるよ。

天然ってすごい、善良って強い、無垢って無敵だ。


「どうかな? 都合、悪い?」

「うん!じゃなくてっ……ううん、都合悪くないよっ」

「じゃあ決まり」

「うん」

「見たいな、聡美さんの浴衣姿」

「ええっ」

「すごい似合いそうだよね。持ってないの?」

「持ってないことも、ないんだけど……」

「本当!? じゃあ着てきてよ」

「諒くん、今日イチわくわくして見えるよ?」

「うん」

「あっさり認めるんだ……」


(浴衣かぁ……)


ちょうど去年、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが買ってくれた浴衣があるのだけど。

去年はまったく着る機会がなくて。

せっかく買ってもらったのに、まだ袖を通したことがないんだよね。


「浴衣、ダメかな?」

「ダメじゃ、ないけど……?」

「本当!?」

「あっ、諒くんは持ってないの?」

「僕?」

「うん。もし持ってるなら着てきてくれたらなぁって」


だめもとで言ってみた。

女の子はともかく、男の子はそう持っているもじゃないもんね、浴衣なんて。

でも――。


「あるよ」

「本当!?」

「うん。まだないけど」

「へ???」


あるの? ないの?? どっち???

それともまさか、わざわざ買おうとしてるとかじゃないよね???


「祖母が縫ってくれたらしくて」

「そうなの?」

「うん。“死ぬまえに縫ってやらなきゃと思って”って」

「えっ……」

「いや、ぜんぜん元気なんだけど。焼肉食べ放題行くくらい元気。だから気にしないで」

「う、うん」

「口癖みたいなもんだから。“死ぬまえにナントカ”ってさ」

「そ、そうなんだね……」


もう、いきなりびっくりするじゃない!


「ずいぶんまえから取りにくるように言われていたのに放置状態になってて……。夏祭りには間に合うように受け取ってくるから大丈夫」

「うん」

「楽しみだなぁ」

「楽しみだね」


夏休みの宿題はもう終わってるし。

ふたりの夏はこれからが本番!

だから、ふたりでいっぱいしよう?

勉強以外のこと――。