すきなひとの、すきなひと




あたしには、馴れ馴れしく、仲良しを象徴するかのように……大きな声で、大きく口を開けて、ニコニコと「梨由」と呼ぶのに。



それなのに。



すきなひとのことは、名前で呼ばないんだ。



今日男子が言っていたように、元弥はもうひとりの永野と付き合うのだろうか。



そうしたら、「セツナ」と彼女の名前を呼ぶのだろうか。熱をもった、なにかを求めるような下がり眉で。



それが、差だ。あたしは、永野セツナにはなれない。



彼女も、永野梨由にはなれない。



だからこそ、この差は埋まらない。ずっと。ずっと、元弥に想われるセツナと……ずっと、幼なじみのあたしと。



彼女は、今日……元弥に誘われて、嬉しそうにしていたな。



「豊見くん」なんて、いかにも可愛らしい声で、響きで呼んでいたな。