「じゃあ、また明日」
握手が終わって、ひらひらと手を振った元弥に……「ばか」と小さくこぼした。
震えてる。かっこ悪い。印象悪い。
いつもみたいには、言えなかった。トゲトゲしく言って、突き放して、自分のダメさに絶望して、失恋したかったのに。
「……ん。また明日」
満足そうに笑って家の中に入って行く背中を見つめて……それからあたしは、自分の家の表札を睨んだ。
――どうしてあたしも、“永野”なの。
元弥は普段、あたしを梨由と呼ぶ。
美少女と騒がれている、元弥がすきなひとのことを、元弥は……「永野」と。優しくて、穏やかで、繊細で、あたたかで、あたしに対してとは違った感覚で呼ぶのだ。



