「和田さんは30歳でらっしゃいますか」
「はい。先日甲状腺機能低下症と診断されて現在ホルモンを補充する治療をしています。」
「そうですか」
理恵が来ていたのは不妊治療で有名な産婦人科だった。
理恵は甲状腺機能低下症と聞いてすぐに自分の状態を調べようと思っていた。朝陽と一緒に結果を聞く勇気がなくて一人で病院へ来ることを決めていた。

「おそらく今日の検査では排卵機能に障害があると思われます。しばらくは甲状腺ホルモンの補充に加えて排卵誘発剤の使用をするか、ピルの使用で基礎的なリズムを作ることもできます。しかし現在の体の状況だと、妊娠できたとしても甲状腺ホルモンの低下により流産や早産、奇形児の出産等、リスクが多い。」
理恵はまっすぐに医師の話を聞いている。自分で予感していたことを、第三者から話してもらうことで現実を認められそうだった。
「甲状腺の機能を薬である程度回復させてからの妊娠をおすすめします。」
「・・・私、30歳なんです。」
「はい」
「夫も30歳なんです。」
「・・・」
「私は今まで仕事をしながらたくさんの不妊治療をする夫婦を見てきました。」
「はい」
「だからこそ、私は焦ってるんです。」