理恵はゆっくりと首を横に振り「思い出しちゃっただけ」と再び目を閉じた。
「片づけたんだけど、やっぱり思い出すよな。いっそ引っ越すか?」
朝陽の言葉に理恵は目を閉じたまま笑った。
「まさか・・・ここ、やっと見つけたのに・」
新築のマンション、しかもコンビニやスーパー、職場が近くて壁が鉄筋で丈夫かつ静か。
日当たりがよくて広さや部屋数も理想通りのこの部屋は、抽選でやっと当たった部屋だった。
「苦労したよな」
「うん・・・。」
そのころを思い出して二人は微笑む。
同じ時を共有しているからこそ分かち合えるものがある。

一緒に過ごしてきた時間の長さを感じていた。

「起きてる?」
静かになった理恵に朝陽が話しかける。
「うん」
「理恵」
「ん?」
「なんでもない」
言いかけた言葉を朝陽は教えてくれなかった。