『ごめん。私は今、自由になりたいんだ。お父さんたちの人形でいることに、限界が来たの』

「人形って……」

『希樹は、私が望んでお茶やお花、ピアノ、バレエ……あれこれやっていると思ってた?』

 言われて初めて、ハッとした。

 羅良は文化系の習い事を、どれも器用にこなしていた。才能があるんだなあと思っていた。

 だけど、そのどれかひとつでも、羅良自身が「やりたい」と言って始めたものはあっただろうか?

『裕ちゃんは素敵なひとよ。でも、私は裕ちゃんより自由がほしいの』

 羅良の声が震えていた。

 冗談を言っているのではないことを、その振動が語っていた。

『今までごめんね、希樹。希樹が裕ちゃんのことを好きだってわかっていたのに、私は裕ちゃんに甘えて、手放すことができなかった』

「え」

 待って、羅良。

 今、なんて言ったの。

 私が、裕ちゃんのことを、好き?

 羅良の言葉に、呆然とする。

『希樹は一生懸命、自分の気持ちを押し殺してた』

「ちょっと待って、私はそんなこと……」

『素直になりなよ。もう、私は戻らないから』

 頭の中が混乱して、返す言葉が見つからない。

 ずっと傍にいたはずの羅良が、知らない女の人に思えた。