「なんだと。なぜ早く言わなかった」
裕ちゃんの目じりが吊り上がる。
もともと馬が合わなかった兄弟の間の溝を深くしてしまうかも。
話してしまった後悔もあったけど、私のメンタルも限界だった。
「家に居るから、健ちゃんが来るのよ。でもずっと外出するのも大変でしょ」
「まあ、なあ」
「だから、アルバイトでもいいから働いて家を空けていれば、健ちゃんも来られなくなる」
そう話すと、裕ちゃんは思いきり顔をしかめた。
「アルバイト? やめてくれよ。俺の妻がコンビニでレジ打ってたなんて噂になったら、会社が傾きかけていると思われるだろ」
「ええー、そう?」
たしかに、ほとんどの人が収入のために働いているんだものね。
星野羅良って名札をつけ、そのあたりのコンビニやスーパーでバイトをしているのを見たら、「もしや副社長の家、お金に困っているんじゃあ」って思う人がいるかもしれない。
「そんなに顔売れてないから」
「誰に見られるかわからないだろ」
「倉庫とか、コールセンターなら人目につかない」
「倉庫? やめておけって。お前の手に傷がつく」
裕ちゃんは、私にあまり外に出てほしくないみたい。
でもこのままじゃ、ずっと健ちゃんの餌食になっちゃう。



