「いや、肉じゃが。父の好物」
「そうなんだ……」
「接待とかで洒落た物を食べ慣れているから、ここはホッとするものを用意しておこう」
なるほど。米ばっかり食べていると、たまにパンも食べたくなるってやつね。ちょっと違うか。
もっと難しいことをすると思っていた私は、拍子抜けする。そしていもを洗う。
「ひと口大に切って」
「ひと口大……」
母が作ってくれた肉じゃがを思い出し、なんとなく切っていると。
「危なっかしいな。指を切るなよ」
ふわりと、後ろから抱きしめられた。
と思って胸が破裂しそうになったけど、実はそうではなかった。
後ろに回った裕ちゃんの右手が私の右手に重なり、一緒に包丁を持つ。
「ほら、左手は猫の手。やってごらん」
……完全に子供扱い。
だと思うのに、背中に密着した体温に、惑わされる。
今までの人生で、こんなに父以外の男の人と密着したことはない。
「乱切りっていうのは、こう。くし切りはこう」
私の腕に動きを教え込むように、二人羽織状態でテンポよく野菜を切っていく裕ちゃん。
逆に集中できない……!
それを言うとまたからかわれそうなので、ぎゅっと唇を結んで耐えた。
全ての材料を切り終えると、やっと裕ちゃんは離れていく。
鍋に材料を入れ、あとは煮るだけになったところで、ホッと息をついた。



