「とにかく朝食をしっかり食べて。お義母さんのお見舞いに実家に寄ってから買い物をして仕込みをすれば、十分間に合うさ」
裕ちゃんは私の肩をつかみ、テーブルに誘導する。
「悠長にご飯を食べている場合じゃ……」
抗弁している間に、私の前にご飯と具がたくさんのお味噌汁、焼き魚とおひたしと卵焼きがワンプレートに盛られたもの、そして納豆がぽんぽんとテンポよく置かれた。
「お、おいしそう」
裕ちゃんが作ったご飯を見るのは、これが初めてだ。
「どうしてこんな風にできるの?」
レシピサイトに載っている、お手本みたいな朝食。
強い引力に勝てず、私は箸とお茶椀を持った。
「社会人になると同時に実家を出たから。テイクアウトや外食に飽きてさ」
話を聞きながら、まずほうれん草のおひたしを口に入れた。
「おいしい!」
他のどれを食べても、幸せの味がした。薄味な反面、お出汁の香りがきいている。
母のものとはまた違う。裕ちゃんの味の虜になった私は、一心不乱に朝食を咀嚼した。
「だから、大丈夫だって言っただろ」
私は大きく首を縦に振った。



