別に、「インフルでも構わないから来て」なんて言ってないのに。
『親にいたわりの言葉もかけられないやつは、知らん。勝手にしろ!』
父は一方的に怒鳴ると、人間とは思えないタイミングで通話をぶったぎってしまった。
「うそでしょ……」
母が来てくれると思って、何も考えてなかった。
義両親の襲撃、じゃなかった、来訪は、明日。
「いやあああああ!」
絶対絶命、大ピンチ!
「裕ちゃん、裕ちゃん!」
自室からリビングに駆け込むと、エプロンを着けた裕ちゃんがキッチンに立っているのが見えた。
部屋には美味しそうなお出汁の香りが漂っている。
「おはよう。どうした?」
いつものスーツ姿も素敵だけど、エプロンをしたら、シェフみたい。よく似合っている。オリーブオイルを、ものすごく高いところから垂らしそうな感じ。
仕事が休みだから、朝食を用意してくれたらしい。
なんて優しい旦那様なんだろう。それに比べて、私ときたら。
「母が、インフルだってぇ」
「え、インフルで入院でもしたのか?」
驚いた顔をする裕ちゃん。
涙目の私を見て、母がよほど重篤な状態に陥ってしまったと思ったらしい。
「ううん。今日来られないって。どうしよう。私、なんの準備もしてない」
「なんだ。そんなことか」
慌てる私とは正反対に、裕ちゃんは鷹揚に笑った。



