「そういえば、希樹はパスポート、持っているか?」

 たずねられ、ちょうどお肉を口に運んだばかりだった私は、それを咀嚼しながら首を横に振った。

 ひとりで引越しの片づけをしていた私は、昼ご飯を食べてからソファで昼寝をしてしまった。

 で、残りの片づけをしていたら、夜になってしまい、裕ちゃんが帰ってきた。

 当然夕食の準備などというものができているはずもなく……私たちは近所のレストランで夕食をとることにしたのだった。

 洋服は、一張羅の姉ワンピ。裕ちゃんは私を見て羅良を思い出すのだろう。機嫌よさそうにしている。

「うん、あるよ。ちゃんと持ってきた」

 生まれた時から、毎年両親と海外旅行をしていた。今でも彼氏ではなく両親とってところが泣ける。

「新婚旅行まで、あとひと月くらいあるから。期限を確かめておいてくれ」

「えっ、新婚旅行、行くの?」

 式の後すぐに行かなかったから、キャンセルされたんだろうと思っていた。

「仕事の都合で、時期をずらしたんだ」

「そうじゃなくて。キャンセルしないの?」

 私と行って、何が楽しいんだろう。余計に虚しくなったりしないだろうか。

 ナイフとフォークを持ったままたずねると、もう食べ終えてしまった裕ちゃんが首を横に振る。