「ほら、行くぞ。俺もそれほどゆっくりはしていられない」
「は、はい」
そういえば、裕ちゃんは仕事を抜け出してきたんだ。
我に返り、彼と一緒に建物の中に入る。
オートロックを解除し、エントランスへ。
「ホテルみたいだね」
広々としたエントランスは白い壁に囲まれており、大きなタペストリーがかかっていた。
その前に置かれたテーブルやいすの足はくるんと曲がっている。
実家も、同級生に「豪邸」とあだ名がつけられるくらいの広さはあるけど、既に築二十年ほど経っているので、なんとなく古臭い。
ヨーロッパ風の建物にウキウキしながら、ついに新居の扉を開けた。
「ようこそ、俺の花嫁さん」
「いやいやいや」
裕ちゃんがおどけて言うから、恐縮して中に入る。気分は居候だ。
どの部屋も白い壁に囲まれた新居は、ダイニングキッチンと広々としたリビング、ベッドルームが三つ、ウォークインクローゼットに、シュークローゼットまで。
「こじんまりしていた方が掃除が楽だって、羅良が」
「え、これでこじんまり!?」
実家に比べれば狭いけど、同年代の新婚家庭が住むには十分な広さだと思う。子供ふたり生まれても余裕そう。
「いいなあ、羅良……。こんなに素敵な旦那様がいて、こんなに素敵なマンションに住めて……」



