遅れないように車外に出て、私のリュックを肩にかけた裕ちゃんを追いかけていく。
平置きの駐車場から出て、植えられた木の間を通り抜けると。
「わあ……可愛い」
現れたのは、白い石造りのマンション。
二階建てで横に長いそれは、日本にいながら西洋の街にトリップしてきたかのような錯覚を見せる。
「フランス産ライムストーン張りの壁だそうだ」
「羅良、好きそうだな~」
羅良は高所恐怖症だったので、高層マンションには住めないと常々言っていた。
「裕ちゃんはもっと高い方が良かったんじゃない? ほら、なんとかヒルズとか、ペントハウスとか」
周りを見ると、塀の向こう、低地に閑静な住宅地があった。騒音とは無縁そうだ。
「高い方が夜景は綺麗に見えるって言ったんだけどな。でもあいつが、静かな方がいいって言い張るから」
あいつ、とはもしかしなくても羅良のことだ。
裕ちゃんは穏やかな顔をしているけど、心の中ではどんな思いを抱いていることだろう。
ふたりは、これから一緒に暮らしていくことを考えて、このマンションに決めた。
その未来のビジョンの中には、いつか授かる予定の、ふたりの子供もいたのだろう。
私がいるのは場違いな気がして、腰が引ける。



