私は、裕ちゃんのことが好きだったのかな。
彼は従兄弟のような存在だった。つまらない大人の集まりで顔を合わせると、いつも優しく私たち双子と遊んでくれた。
見た目も格好いいとは思っていたけど、私にとってはそれより陸上部の活動の方が大事だった。
気づいたら私は、ショートカットの、日焼けした少年のような女子高生に。
だから、羅良と裕ちゃんが付き合うと言いだしたときも、ピンと来なかった。
そのすぐあと、彼らが親に婚約させられたときも、私は何も言わなかった。そんな権利、私にはなかった。
ただ、胸が切りつけられたように痛かったことだけは覚えている。今でも、克明に。
「おい、着いたぞ」
低い声に揺さぶられ、ゆっくり目を開ける。
視線を横にやると、裕ちゃんが自分のシートベルトを外していた。
「よく寝てたな。口開けっ放しで」
裕ちゃんがぼーっとしている私のシートベルトを解除する。
急に狭くなった距離に驚き、慌てて口を閉じた。
嫌だなあ、変な夢を見ちゃった。
忘れたはずの……ううん、もう気にしないようにしていた過去の夢。
私は首を横に振り、過去の残像を吹き飛ばす。



