もしかして羅良は、急に親が望んだとおりの人生を歩むのが嫌になったのかもしれないな。
母にフォローを入れつつ、頭の片隅でぼんやりとそう思った。
「さて、引越し屋さんが来ちゃう。お母さん、元気でね。ちょくちょく帰ってくるけど」
コップを流しに置いて挨拶をすると、不意にインターホンが鳴った。
「ほら、来た」
湿っぽくなった雰囲気を壊すようなインターホンに救われた気分だ。
モニターを見もせず、玄関に直行してドアを開けた。すると。
「あれ?」
そこには、スーツ姿の裕ちゃんが立っていた。
「引越し業者はまだか?」
「もうすぐ着くはずだけど。裕ちゃん、どうしたの? まだ仕事中でしょ?」
平日のど真ん中に、一流企業の副社長が仕事を抜けてきていいのだろうか。
首を傾げると、裕ちゃんはさらっと言った。
「妻が新居に越して来るというのに、何もしないわけにはいかない」
「え、でも……荷造りは終わったし、あとは業者さんに運んでもらうだけなんだけど」
玄関先で話をしていると、後ろから母の足音が聞こえてきた。
「あらっ、裕典さん。どうぞおあがりになって」



