母はしかめ面で、私のお尻をぺんと叩いた。

「本当に、こんな普通の子が……心配で仕方ないわ」

「羅良みたいに手をかけてもらいませんでしたから、こんな娘に育ちました。お母様の教育のおかげです。どうもありがとう」

 母は昔から出来のいい羅良につきっきりだった。

 嫌味を言うと、母は悲し気に顔を歪めた。

「だって、希樹は元気で明るくて、放っておいても大丈夫だと思ったんだもの」

「ええ?」

「放っておいても、優しい男の人と出会って、普通の家庭を築いて幸せになってくれるって確信が、あったんだもの」

 なに、その根拠のない確信。

 ツッコもうとしたけど、しょぼんとうなだれた母の様子に声を失う。

「なのに、こんなことになって。ごめんね、希樹。希樹には自由な人生を歩んでほしかった」

「お母さん……」

 そんな風に思ってくれていたとは、知らなかった。

 手をかけられた覚えがない代わりに、母は子供の頃から私にすべての決断を任せ、自由にさせてくれていた。

 なのに、今になって親の都合で、付き合ってもない人と仮の夫婦を演じようとしている。

「そんなにへこまなくていいよ。本当に政略結婚させられるわけじゃないんだから」