なんとか午前中に荷造りを終えると、父はスーツを着て仕事場に行った。

 お腹が空いたので、キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。

 うちは裕ちゃんの実家みたいに、シェフも家政婦さんもいない。

 母が料理や家事が好きだからだ。

 家族以外の人が家にいないというのは、家庭の秘密が漏れなくていい。

 けど、料理してくれる人がいないのは不便だなあ。

 いつもは母か羅良が料理してくれていた。私は食べる専門。

 手を出そうとすると、いつもふたりにそれとなく遠ざけられた。まるで、小さい子供がお手伝いしたがっているのを煙たがるように。

 調理なしで食べられるフランスパンと生野菜と生ハムを発見し、それらをひとりでもそもそ食べていると、母が寝間着のまま現れた。

「……もうこんな時間」

 時計を見て、ため息をつく。

「まさか、料理もろくに出来ない子がお嫁に行くなんてねえ……」

「本当だね。誰のせいとは言わないけど」

 自分の意志ではないことを強調し、席を立つ。

 コップにオレンジジュースを注ぎ、一気に飲み干した。

「こら、手を腰に当てない。おじさんみたいよ」

「うるさいなあ。別にいいじゃん。実家なんだもん」

「家でのくせは、外に行っても出るのよ」