「ん~」

 下唇を噛んで泣きそうになるのを堪える。

 すると、裕ちゃんの目がこちらをとらえた。

「どうした」

「私、バカだから……ははっ、全然わからない」

 頭を掻くと、裕ちゃんが手を止め、私の問題集を取り上げた。

「この最初の問題からわからないのか?」

「えへ……」

 誤魔化して笑う私を、裕ちゃんは渋い顔でにらむ。

「どこでつまづいたんだ。まだ一年生だろ」

「どこでって……たぶん中学の数学から?」

「……つらいな」

 ふうとため息を吐く裕ちゃん。

 呆れられちゃった。

 少し心が重くなった。

「いいか、今回の範囲はここからここだな。じゃあ、過去のことは忘れろ」

「はい?」

「今から俺が話すことだけ覚えておけ。いいか、こういう場合は、全部この公式に当てはめればいいんだ」

 裕ちゃんが私の問題集に、達筆で書き込む。

 これって……個別指導!

 周りに人がいないか、再確認する。

 こんなシーンを見られたら、またなんて言われるか。

 しかし幸運にも、周りには誰もいなかった。

「ほら、やってみろ」

 ゆっくり、何度でも、私がわかるまで説明してくれる裕ちゃん。

 私は彼に認められたくて、必死に話を聞き、手を動かした。