「だって、裕ちゃんには絶対、幸せになってほしいもの」
高校生のとき、私を助けてくれた裕ちゃん。
大事な姉の命まで、救ってくれた。
優しいから、家のこと、私たちのことを優先して、自分の幸せを置き去りにしてしまうなんて。
「……鈍感にもほどがあるんだけど」
呆れたような顔で、羅良がボソっと呟いた。
「え? なに?」
聞いた瞬間、玄関のベルが鳴った。モニターを見ると、なるほど男性にしては線の細い、綺麗な顔の羅良の恋人が不安げにこちらを見ていた。
「なんでも。じゃあ私、行くね。ママ、元気で。パパも」
また羅良が離れていってしまう。
寂しくて、つい手をつかんでしまった。
「またいつでも会えるよね?」
「もちろん。話したらスッキリしたし」
「そっか。じゃあ、帰り道気をつけて……」
あまり彼氏さんを待たせてもいけないよね。
手を放すと、母が羅良に駆け寄った。
「いつでも遊びにきていいからね。お相手のことも、また落ち着いたら紹介して。待ってるから」
「ママ……」
羅良は、大きな目を瞬かせた。
受け入れられると、思っていなかったのだろう。
母の優しい言葉に、泣きそうになっているのがわかった。